★ 東南アジアを中心とする開発途上国営業については、 カワサキも1969年頃から商社を通じての完成車輸出営業は開始していたのである。
それはCKDに対してCBUと言われていて、 CBUとはCompletely Built-Upの略で「完成車」を意味しているのだが、 発展途上国にとっては、先進国からの完成車の輸入は、自国の自動車産業の発展に繋がらないので、完成車の輸入には高い関税を課していた。
先進メーカーは既に現地でのノックダウン工場を持っていたので、カワサキも『市場開発プロジェクト室』を作って本格的な市場進出を目指すのだが、私はその中心プロジェクトであった『タイ・プロジェクト』を担当することになったのである。
★ そのタイ市場は従来から営業の『小池博信』さんが直接の担当だったのだが、 後年彼はタイプロジェクトを中心にこんな『自分史の冊子』を纏めている。タイ・プロジェクトでコンビを組んだ、小池博信君が後年こんな自分史を発行いている。GTOとは無茶苦茶売れたその頃のヒット商品の名前なのである。合弁会社の名前がGlory Kawasakiだったので『豪華川崎』と名付けているのである。
そこには私の名前も登場していて、『タイプロジェクト』は私と小池コンビで推進することになるのである。
★もともと、タイ市場については、華僑の馬(マ・ファミリー)との間で、 日商岩井・カワサキの3者での合弁事業計画の検討はなされていたのだが、 3者間の調整がムツカシクてなかなか前に進まなかったのである。
小池君たちが作っていた『事業計画』では経営はなかなかムツカシイのだが、カワサキ側もこのプロジェクトを推進したいので、初期には少々金を補填してでも軌道に乗せたいというのである。
馬ファミリーにはその息子さんが二人いて、その息子たちがCKD事業に熱心なのである。 だが実際の二輪の商売は『チャンさん』という番頭さんが独りでやっているようなものだった。
私は現地に出張して、約1か月間いろんなことを観ていたのだが、『華僑商売』というのはなかなかオモシロいのである。『馬さん』は二輪だけではなくて『金屋』やその他いろんな商売をやっていて、その商売ごとに『チャンさん』のような番頭さんがいるのである。なぜ、そんなに沢山の商売が出来るのかなと、その『やり方』をチャンさんに聞いてみたら、その仕組みは至って簡単なのである。
商売に『必要な金』は毎月『チャンさんが馬さん』から受け取り、それを使って人を雇ったり、経費に当てたりするのだが、『すべてチャンさんの思うよう』に使えて、決裁などは全くないというのである。ただ、バイクを売ってそれが『現金化』したら、その金は『馬さんに毎月渡す』のだという。そして毎月『馬さんに渡す金』の方が『馬さんに貰う金』より多いので『商売は儲かっている』と思うというのである。
こんな単純なシステムだから『いい番頭』さんさえいれば幾つもの商売が出来るのである。 これには私もビックリだった。
チャンさんに小池くんなどが創った『事業計画』のことを聞くと、 『あれは私は一切関係していない』 いろいろな質問に答えただけだというのである。 小池くんたちはこんな商売の仕組みなどはご存じなかったのである。
★ 私の仮説は、『儲からない事業』を華僑が工場まで投資してやろうというというはずがない。 若し、不安があるとすれば『事業をスタート』した後の『カワサキの心変わり』だけだろうと思っていたのである。
従って、出張中の1か月間、特に具体的には何もしなかったが、 馬さんの長男のチャンチャイさんや、番頭さんのチャンさんとの信頼関係は築けたと思うし、 小池君との仲も本当に身近になったのである。
長い出張の最後の1日、 私は、馬ファーミリーとの会議 を持って 英語もそんなに上手く話せなかったので、 黒板に『正直・誠実・勤勉』『信頼・互譲・協力』という 川崎航空機工業の『社是と執務態度』を書いたのである。 これを見て『馬さん』はこのプロジェクトのGOを決意したのだと思う。
その時のことを小池君は自分史の中でこのように書いてる。 小池君の書いている文字はちょっと違ってはいるのだが、
そして年が明けて、1977年2月に 『馬・日商・川崎』の3者の合意に基づき、 Glory Kawasaki Motors Co. Ltd がスタートすることになるのである。
1976年10月にスタートした『市場開発プロジェクト室』だが ちょうど半年で、一つの大きな課題の解決を見たのである。
『ものごとは半年あれば実現する』 『半年でできないものが10年経ったら出来る保証はない』
これは私の信念なのである。 この1年の間に、『カワサキの小型車事業は様変わり』したのである。
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